『センセー。ここ分かんないんですけどぉ。』


「どこ」


『この問題ですぅ。』



ちっ、こんなんも分かんないのか。授業中寝ているからだろ。さもなきゃケータイいじってたんだろうなぁ。


昼休み、化学準備室にいる俺に質問に来たその女子生徒は喋り方が芝居掛かっているから苦手だ。


「それは…アボガドロ定数を使ってやるんだ。ってコラ。人の机をいじくるなよ。」


『センセー、彼女いるの?』



うわぁ。真希にまた始末書いてもらわなきゃいけないじゃん。なんて言おう…



「相川先生ぇ!しーつもーんでぇす!」


「お、おう!海乃か。ほらお嬢さん行った行った。次待ってるんだから。」



女子生徒は残念そうな顔をして去って行く。出際に海乃に『ごめんねぇ?』と笑顔で言われて苦笑いを浮かべた。


あぁもったいない。


なんで男なんだ海乃。



「どれなんだ?ってソレ!?ふざけんなオレにケンカ売ってんのか海乃ぉ!」


「えー。教えてくださいよ!分かんないんだから!!非常勤でも講師でしょ!?東大出てるんでしょー!??」



『難関国公立医学部向け・化学Ⅰ~発展編~』



い、嫌がらせだ。絶対そうだ。


東大出た俺へのあてこすりに違いない。畜生、答えればいいんだろ答えれば!