嘘…単にオレの事忘れているんだと思っていたのに、記憶が無い?



「記憶が無いって…原因は?」


「分からない。けど、気がついたら、今のお母さんになってた事ぐらいかな…そこからしか覚えてないんだ。」



かき氷はすでになくなっていた。


だけど、まだ容器は冷たくオレの手にしみる。



「…ゴブリン。」


「は?」


「ブラウニー、シルキー、メロウ、バンシー、ユニコーン…」


「待って待って。何の呪文なのそれ。」


「忘れた?本当に?覚えてない?」


「…妖精の名前、よね。ユニコーンは幻獣だけど。」


「全部君がオレに教えてくれた。」


「小学校の頃?」


「思い出してよ!自分で!!…あ、着いた。」



校門の前まで来ていた。

予鈴20分前だから、生徒は部活の朝練組しか登校して来ていない。有り体に言えば、2人きりだ。

オレは昇降口にある蓋付ゴミ箱にかき氷の容器と簡易スプーンを投げ込んだ。



「…ごめんなさい。」



声は悲しんでいるのに、表情は変わらない。自分のもどかしさに吐き気がする。



「いーよ!思い出してもらうまで、かまい続けるから覚悟しといてねぇ?」



今のオレにはそれしか言えないから。



「真希…?に海乃 翔?」