永遠かと思えるほどの沈黙。


実際はほんの一瞬だろうけれど、私は声を絞り出す。




「あの人…生きてるんですか?」




私を捨てて1人だけ逃げた人。


顔も分からない、私の母親。




「…うん。生きてるよ。俺の、実の母親だ。」


「実の…!?先輩、ちゃんと17歳ですよね?」




先輩は辛そうに目を伏せた。


長いまつげが先輩の頬に影を落とす。


ギュッと一歩こっちに大股で近付き、抱き締められた。




「ちょっとせんぱ…」


「そのままで聞いて。


俺は、9年前まで、父親だけで暮らしてた。


でも9年前のある日突然、母さんが文字通り転がり込んで来た。親父は喜んでたけどね。


『もうあの家にはいたくない。』そう言ってた。

後から知った事だけど、君の…芹沢の家での母さんは、子供を生むための道具だった。芹沢氏がそう言ったらしい。


母さんの実家もそこそこの名家だったらしいからね。俺の親父と無理矢理離婚させて連れて行かれていた。


だから俺は間違いなく今の父さんと母さんの子供。君の1歳年上の種違いの兄。


…母さんは、君に会いたがってる。9年間、ずっとずっと、君の名前を、呼ばなかった日は無かったよ…。」