「これは、いささか目が回りすぎる」
眠いところを無理やり起こされて服を着せられた太った中年女のような新日本プロレスのシャツを着た男は言った。

「もうだめなのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。
でも確実に言えるのは、この先、あなたの頭が床に叩きつけられる以外のなにものでもないって言うことだけね」
私は答えた。

今、落してみようと思う。好むと好まざるとにかかわらず。

もちろん落す理由など何もないし、落しても、あるいは事態は全く同じということになるかもしれない。
弁解するつもりはない。しかし、少なくとも落すことは現在の私におけるベストだ。
結局のところ、落すことは自己表現の手段ではなく、自己表現へのささやかな試みにしかすぎないのだから。

それでも私はこんな風にも考えている。うまくいけばずっと先に、何年か先に、表現したい自分を発見することができるかもしれない、と。
そしてその時、今年の夏の記憶の中に還り私は自分の言葉でフランケンシュタイナーを語り始めるだろう。

ぐしゃ。

やれやれ。この夏で17人目だ。

何となく、自分の身体が、自分のモノではないような、そんな感触だった。それはまるで何人のかの人気ケータイ小説家に弄ばれた後のような感覚だった。でも、いつものように顔を洗って、丁寧に下のひげを剃れば、そんな不快感はきれいさっぱり忘れられるんじゃないかと思った。

「剃るんだよ」

秋は2曲目のイントロにのせて言った。
「ヒゲの残っている間はとにかく剃り続けるんだ。おいらの言っている事は分かるかい? 剃るんだ。剃り続けるんだ。何故剃るかなんて考えちゃいけない。意味なんてもともとないんだ」