あたしの背中には、翼がある。

そうとしか思えない身軽さで、あたしはトんだ。

男の両肩に太ももを置き、顔を挟み込む。

勢いに押され、一瞬、男が怯んだ。

ようは、タイミング&不意打ち!!

あたしは天使もとろけそうな甘い笑みを見せる。

視線の先は……白く柔らかな太ももの間にいる浅黒く脂ぎった男の顔。

股間にかかる男の息が、三度ほど上がった。

童貞かよ?

上からは、極上の笑みを注がれ、分厚い唇の前には女の柔らかな部分、左右には、滑らかな感触。

いかせてあげる。

金メダルスケーターも真っ青な勢いと完璧さで、あたしは、背をのけぞらせた。

重力はあたしの味方。

がっちりと男の顔をはさみ込んだまま、勢いをつける。

「うほっ!」

男のくぐもった声が、神経を苛立たせる。

ガラスのテーブルに足をのっけて熱唱中の秋と、逆さまの世界で目があった。

あたしの髪が、吹雪のように光にきらめく。

男の靴底が、地面とさよならを告げ、体が、前にのめりこんだ。


浮遊感……ジェットコースターで回っているような、フリーホールで落ちるような。

今だ!!全身のバネを使う。筋肉が歓喜の声をあげる。

軍隊に入隊したこともあるあたしを、舐めんなよ!

通販DVDのキャンプだけど……。

華麗に後方に回転するあたしに巻き上げられて、男の体は宙を舞った。

一瞬の静寂の後、激しい音。

脳天から床に叩きつけられ、男は沈黙し、ひれ伏していた。

あたしはというと……

ガラスのテーブルに腰掛け、秋の足にもたれながら、男の背中を踏みつけていた。

地獄へいってらっしゃ~い!

秋の歌が、レクイエムに聞こえた。

大音量だけど……。

まぁ、いいとしよう。