「!?」

 目の前に迫ったブルーのパンツ。
 ガンガン冷房が効いた部屋に乙女のフトモモ熱が微かに感じられる風圧。
 思わず(もちろん多種多様な意味で)反射的に腕でそのフトモモを巻くように抱える男──


 ──その新日本プロレスTシャツは伊達じゃないようねっ!

 太い腕に生えまくりの剛毛がフトモモに気持ち悪いっ!
 嫌悪感と共にあたしはカラダを勢いよくそらす。
 反射的に身を縮めるように下半身に力を込め、その反動で同時に両腕を柔らかく
振り上げて、迫り来る汚れた床に備え──


 ほんの一瞬。
 視界が男の頭頂部から顔に移る。
 そして次に高い天井のシャンデリア。
 キラキラ揺れて、光るその光が目に焼きついたみたいに線を描く。
 
 指先が床に触れる感触と共にカラダから浮遊感が消えてのしかかるような重力。
 
 ──っしゃっ!

 それに僅かに先駆けて感じた感触に思わず口元が緩む。
 固定されていたフトモモ、アタシの無敵の下半身は期待を裏切ることなくジャストなタイミングで上半身についてきている……──男の頭を挟んだままで。
 
 ぐいっと体を縮めてフトモモに力を込め(ヌルついて生温くていやだけどっ!)そのまま男の頭を汚い床に誘う。
 

 ここまで、時間にして二秒足らず。
 股間越しに男の顔が一瞬見えて、

 ──……ガシャァァンッ!

 気持ち一泊置いて男の体が床に叩きつけられる音が、部屋に響……──ちがう!!!

 いまだシャンデリアの光が焼きついた目に映るのは光の破片、砕け散ったガラステーブル。
 男の体が反動で跳ねる感触にバランスを崩しそうになる、けど──

 ──はぁっ!!

 鋭く気合と共に息を吐き、腹筋に力を込めて腰をひねる。
 宙に浮いたその反動を利用して、重力が乗り切る前にあたしは無敵の腰フリを繰り出す。
 カラダを巻き込むように上半身を起こしたあたしの膝に振動と共に響く音。

 男の頭が床にブチあたり、そしてそのまま万有引力だとか質量保存の法則だとかメンデルの法則とか(なんかこれ違う気もするけどっ!)そんな感じでステキにカラダも、──落ちた。