相手に生じた隙を生かさなくては一流のグラップラーとは言えない。

私はソファから飛び降り、ガラステーブルに足を乗せた。

すかさずダッシュ。

一歩目で加速。二歩目で最高速。

三歩目は、前傾姿勢で歌っている秋の背中へと。

ぐえ、と蛙の潰れるような声を出し、それでもマイクを離さない彼を踏み台に、私は飛んだ。

自分より確実に強い相手を倒す時に有効な手、それは奇襲。

特に、魅せ技が主なプロレス技は、奇抜な技が多い。

秋を踏み台にした私は、天井スレスレのところを舞っていた。

唖然としている新日本プロレスシャツ男の顔面めがけて、私はとびかかる。

体当たりでも来ると考えただろうか、甘い。

そのままの勢い、私は男の頭の両脇へ両足を差し込んだ。

ちょうど、肩車を前方からやるとこんな感じになるだろう、という状態だ。

当然、バランスは悪い。

飛びかかられた男は、フラフラと後ろに後退するが、バランスを取ろうと今度は前へ歩を進めた。

重心は、当然男の前方に置かれる。

そのタイミングを逃さない。

フッと腹筋に力を入れ、私は体を丸め込んだ。

鼻先すれすれにまで男の顔が近付く。

はっ、ブサイク。

ニッと笑ってやると、私は即座に彼の顔から離れるように、体をえびぞりに反らせた。

さながらばね仕掛けのおもちゃのように、勢いよく反ってみせる。

視界がぐるんと回転。

あぁ、逆上がりってこんな感じだったっけ?

あいもかわらず熱唱している秋を逆さまに見ながら、私は下半身を丸めこむよう腹筋に更に力を入れる。

挟み込んだ両足は男の頭をがっちりと固定。

バランスを崩していた男は、当然私の回転に引きずり込まれる。

そのまま私とともに回り、そして。

頭から落下へと至る。

フランケンシュタイナー。

プロレスにある魅せ技の一つ。

自分の全体重にプラスして、相手の体重もかかり、更に遠心力が乗算。

その全てが頭へと集中する、恐ろしい技。

本来ならかけにくいこの技も、相手の力を利用すればこの通り。

しかし。