小さな街のドアベルマン

すっかり雨も上がり、ぶ厚い雨雲の隙間を縫って、小さな星が顔を出しました。


ベルに傘を返したお嬢様の隣には、仕事が終わったベルの姿がありました。
階段下に座るお嬢様が、ホテルに戻るまでお側にいよう。
ベルはそう決め、濡れた階段に座りました。


「ねえ、ベル?」


『はい、なんでしょう?』


「ベルは、私の事バカだと思う?」


『どうしてですか?』


俯いたまま、突然言われた言葉にベルは少し驚きました。


「だって、さっきバカだっていったじゃない。」


そうイタズラな笑みを浮かべるものの、お嬢様はベルの顔を見ようとはしませんでした。


『それはお嬢様が…』


ベルはそこまで言ったあと、一息はくと、いつもより優しい口調で言いました。


『バカだと言った方が、気が楽になるのなら、何回でも言います。
でも、崩れるほど好きだった人を、そんな言葉一つで忘れようとするのは止めてください。』


「ベル…」


『人を愛するって、大変ですよね。
本当に愛し合っていても、いつの間にか心がすれ違ってしまってしまうんですから…思いが届かない時もありますしね。』


ベルは目尻に小さなシワをよせ、微笑みました。