翌朝―
お嬢様が帰る事はありませんでした。


サア― サア―
その日は不吉にも雨でした。
そして、ベルはいつもの場所に、黒い傘を差してドアの前に立っていました。


薄暗い空を灰色の雲が一面覆い隠していても、鐘の音は遠くまで届きました。


そして、そんな雨の中でも常連様はいらっしゃいました。
カラフルな傘がベルの前に並び、いつものように「やあ、ベル」と挨拶を交わす。
まるで何も無かったかのように。


「おはようベル。
雨なんて嫌ね~」


『おはようございます。
そうですね。
洗濯物が乾きにくいですからね。』


雨で客足は減ったものの、ベルは昨日よりも穏やかでした。