結局お嬢様がホテルに帰ったのは、太陽が沈み始めた夕暮れ時でした。


あちらこちらで夜を告げる鐘がなり、お菓子を手に持ち、笑い合っていた子供達の姿がまた明日と告げていました。



ガチャ─カランカラン♪


ドアが開いた事を知らせるドアベルが、ベルの頭上で鳴りました。



「ありがとう、ベル。



そう挨拶をしながら、出て来たお嬢様が、オシャレをしていたのにベルは気づいていましたが、何も言いませんでした。


僕なんかの言葉を待っている訳がない。


そう自分に言い聞かせながらも、いつもと違う雰囲気のお嬢様から目を離すことが出来ませんでした。



「行ってきます」


『お気をつけて…』


「ありがとう。」



優しく笑うお嬢様の笑顔は、きっとこれから、愛する人に向けられるんだ…。


そう思うと、ベルの心は余計に苦しくなりました。