「俺の奥さん、だいぶ前に亡くなったんだ。」
「え?」
「彼女と永遠の別れをして、もう誰かに恋をすることはないって
思っていたのに。どうしてだろうな、君の事がずっと気になってて」
風が穏やかに吹いている。
それに答えるかのように木々がゆさゆさと優しく揺れる。
太陽と月の交代は間もなく終わりそうで。
引っ込み思案な月が今は堂々と街を照らしている。
「これが恋と呼べるかどうかは正直分からない。でも」
彼がそこまで言った時に
私は彼を抱きしめていた。
「そんなの、恋に決まってるじゃない。恋じゃなきゃ許さない」
スーツ越しから伝わる温度に
本当にこの人がここにいるんだって
今更実感している。
「俺、君の事、知らないんだ。名前も、歳も。何が好きかも」
「教えてあげる。祐二さん」
「あれ、名前」
「名刺、貰ったから。」
「そうか。それで、君の名前は?」
「私?私の名前はね・・」
失恋の次の日に訪れた突然の恋。
あなたの事、何も知らないけど
ゆっくり知って行けば
いいよね?
あっ、そう言えば
スーツにしがみ付いたままでずっと気になっていたことを彼に聞いてみた。
「私と奥さんが似ているってどういうとこが似てるの?」


