やめて・・
「大丈夫だよ?俺、こう見えて社長さんだし。」
やめて・・・
「あっ、うまい和食屋さん知ってるんだ。そこでいい?」
もう、やめて
「帰る」
この言葉を言ってしまったらもうこの人とは会えないって
自分でも分かってるのに。
だけど
これ以上この人と関わりたくはない。
これ以上は
関われない。
「え、帰るって?」
「ごめんなさい。奥さんいる人いるのにこんなこと、
私にはとてもできません」
「え?」
信号はちょうどストップをかける赤を示している。
車がゆっくりスピードを落とし、止まった瞬間、
シートベルトを外してドアを開け
「弁償にならないかもしれないけど、これ」
バッグからお財布を出して中に入っている一万円札を渡す。
「これで何か他のハンカチを買って使って下さい」
「ねぇ、どうしたの?俺、何か言った?」
そんなの自分で分からないの?
ううん、この人は何も悪くない。
なかなか受け取らない彼の胸に無理やりお金を押しつけて
車を降りた。
「ちょっと!!!」
彼は何も悪くない。
悪いのは
全部私なんだから。


