ところで先ほどの自己紹介からも分かると思うが、オレは探偵だ。

今日は依頼者と会うため、行きつけのバーにて、今は一杯やっている。



ああ、そうだ…話は少しずれるんだが…こんな話を知っているか?



人づてに聞いたのだが『一度は言ってみたい言葉』というものに

「マスター…いつもの」

というものがあるらしい。

ちなみにオレはここに毎日10年以上も通っている。マスターも顔なじみなので当然、憧れのセリフを使えるというわけだ。

「マスターいつものだ」

しかし酒が飲めないオレに差し出されるのはいつも決まってウーロン茶。

憧れのセリフの後、ウーロン茶を口にする男の姿は周りから見てさぞかし滑稽なことだろう…

正直、合コンに車で来た女が頼むようなドリンクに、このセリフを使うのはいささか恥ずかしいのだが…

「ウーロン茶」と頼むとマスターはオレを無視するのだ。

どうやらこれは「言ってみたい言葉」というだけではなく「言われてみたい言葉」でもあるようだ。

ふ、まったくお茶目なマスターだぜ。