『里山…… 新入生が来る日くらいは大人しくしていてくれ』

先生は溜め息を何度も吐きながら俺の髪をスプレーで黒くする。

『せっかく桜の花のイメージだったのにぃ』
『ったく… 里山は頭も悪くないんだから真面目になったらどうだ?』

……俺、真面目なつもりなのにな。

『そりゃ家庭の問題もあるだろうが、反抗したって仕方ないだろう』

家庭の問題?
反抗?

お前(教師)が俺の事情を決め付けんな。
複雑な家庭だからグレるんだって、決め付けんな。

悪いけど、そーゆうの大嫌い。

『やっぱ一久だけだよなぁ。 解ってくれるの……』

俺は「グレてる」んじゃないんでーす。
「少ない自由を満喫」してるだけでーす。

……ただそれだけ。

『里山と連城が友達なんて初めて聞いたな』
『まぁ、最近ですから……』
『じゃあ里山からも連城に、家に帰るように、と言ってくれないか?』

……家に帰る?
どーゆう意味だ?

『センセー、どーゆう事?』
『まぁ、里山は伝えるだけでいいからな』

先生は小さく作り笑いを見せると指導室を出ていった。

家出……か。

『俺も誘ってくれねぇかなぁ』

誰か俺を逃がしてよ。
誰か鎖を解いて。

誰でもいい。
いっその事、逃がさなくていいから、殺してほしいよ……


知らなかったんだ。
あの行為に何の意味があるかなんて……

赤ん坊が当たり前のように母親とスキンシップをとる。

その延長だと思ってた……





『ハル、おっせぇ……』

ハルが指導室に引きずられていってから30分。
このままでは案内係を1人でやるはめになってしまう。

そう思ったその時……

『悪い悪い、遅くなった!』

ようやくハルが姿を現した。
しかしその髪は真っ黒。

『似合ってねぇ』
『自分でも解ってるよ。 おまけにガチガチに固まってるし』

ハルの手が髪に触れても髪形は何も変わらない。

『本当に固まってるな』
『残酷にも程があるだろ…?』

俺は泣き真似するハルを笑い飛ばすと新入生達に整列するよう声を掛けた。