ハルは家庭の事を色々と話してくれた。

父親がホストをしていた時の名前と、自分の名前が同じ事。
今も何処かでホストをやっているだろうという事。

『父親の顔が俺と同じなんだって。 だから俺、母さんに、よく思われてないんだよね』
『……そんな事、俺に言っていいのかよ』

こんな初対面に近い奴に言うなんて、俺なら絶対にしない。
素直すぎるにも、程があるぞ。

『だって俺、一久好きだし』
『え゙!?』
『初めて噂を確かめに来たから。 皆、勝手に解釈しちゃってさ。 誰ひとり聞きに来たりはしなかった』

ハルはフッと笑うと胸ポケットから煙草を取り出して火をつけた。

その横顔があまりにも綺麗で、やっぱり普通の両親からは生まれない存在なんだと思ってしまった。

ごめん。
これも、ハルの嫌いな偏見だよな。

でも、透き通るような綺麗な肌に優しげな茶色の瞳。
俺は少しずつハルに惹かれていってると、自分でも気付いた……

噂ばかりの小さな箱庭。
偽りだらけの人間関係。

そんな薄っぺらい世界より、ハルのいる真っ直ぐな世界に入りたかった。


『ゲホッ…!』
『あは、大丈夫?』

生まれて初めて煙草を吸ったのはハルと出会った一週間後。

その場のノリで……

『煙草なんて吸わん方がいいと思うよ?』

ハルは屋上のフェンスに寄り掛かって笑う。

だってハルと同じ気持ちになりたかった。
同じ事したかった。

いつしか、ハルは俺の憧れで、目標になっていた。

『ハルは何で煙草なんて吸ってんの?』
『んー、ストレス解消』

笑って答えるハルに俺は戸惑いを隠せなかった。
いつもニコニコしてるハルの口から「ストレス」なんて言葉が出るなんて思ってもみなかったからだ。

『……俺、相談にのろうか?』

少しでも理解してあげたかった。
理解できると思ってた。

でも次の瞬間……

『じゃあ一久が代わりに抱いてよ』

俺は初めてハルの冷めた瞳を目にした。

『……なんてね』

誰にも見られたくない瞬間、だったのかも知れない。