「……」


中から返事はない。


でも、俺にはなんとなくわかる。

この薄いドア一枚隔てて、背を向けてうずくまってる未央がいるって事。



「未央、開けて?」

「……」



ドアに手を当てて、俺は小さくそう言った。

暫くして、音もなく開いたドアの向こう側から俯いた未央が顔を出した。



俺の位置からはその表情は見えないけど、いつものように頭の高い位置で結ばれた髪が未央の気持ちを表すようにシュンとうな垂れている。


なんだかそれが無性に可愛くて。

俺の一言でそんなふうになってしまう未央が、いじらしく思えてしまう。


――……あー、やべえ。


思わず抱きしめてしまいそうな衝動を抑えて、俺は開いた扉の隙間から薄暗い部屋に足を踏み入れた。



月明かりで照らされた室内は、意外と明るくて。
開け放たれた窓からは、心地よい風が真っ白なカーテンを揺らしてる。


俺はそれに目を向けてから、静かに扉を閉めた。



向かい合ったままの未央が、遠慮がちに俺を見上げた。

絡まる視線。


黙ってそれを眺める俺に、薄暗い部屋でもわかる真っ赤な未央の顔。

未央は不意にその視線を外して、今にも消えてしまいそうな声で言った。



「……な、何?」

「…………」



震える声、唇。
スカートの裾をギュッと握る手。


……なにをそんなに怒ってんだよ。



そっと扉に背を預けて、俺は未央の細い腕に手を伸ばした。



触れた瞬間、ビクリと固まる体。



……だから、なにをそんな警戒してんだよ。

別に噛み付いたりしねーっつの。