おばさんは胸の前で両手を組むと、俺をジッと覗き込んだ。


……その癖、やっぱり親子だな。


なんてぼんやり考える。


そして、おばさんは遠慮がちに言葉にした。



「日本に、未央も一緒に連れてってくれないかな?」

「え」



予想外のセリフに言葉を失う俺。


……未央を一緒に?
それをおばさんが、俺に言うの?

1人娘を、また日本に?



信じられなくて固まっている俺に、さらに追い討ちをかけるおばさんは満面の笑みで言った。



「あたしもまた暫くうちを空けちゃうし……リンダもいないし。 ここに1人でいるよりも要君と一緒にいてくれた方が私達も安心なのよ。 だからせめてリンダがいない2週間だけでも、未央をお願いできないかな」

「……や。 あの……俺は構いませんけど……」


……あー、そう言うこと。
って、俺ってどんだけ信頼されてんの?


「そう? よかったあ……あの子なんかフワフワしてて1人だけだと心配だったのよ。地に足が着いてないってゆうか。 変な人がたずねてきてもきっと玄関の鍵、すーぐ開けちゃうだろうし」


ありえる。


「そう言うことなら。 未央を預かります」

「お願いします」



にこりと笑って見せた俺に、ぺコリとおばさんは礼儀正しく頭を下げて見せた。



そこでハッと思い出す。


そういやアイツ、なんか怒ってたな……。
素直に一緒にくるかな。


俺はおばさんと別れると、2階への階段を上った。


ベージュのじゅうたんの階段は、いつも綺麗に掃除されていて。
リンダが不在の今も、ホコリひとつ見当たらない。



階段を上がったすぐ左手の薄紅色の扉。
ここが未央の部屋。

この部屋で俺もよく寝てるけど、実は部屋はちゃんと別で用意してくれてある。


あんま使ってないんだけど。



ドアの前に立って、耳を澄ます。

中からは物音はしないものの、確かに未央がそこにいるのがわかる。

まさか……泣いてる、とか?



「……」




俺は一度宙を仰いでから、「はあ」と小さく息をついた。


――…コンコン




「未央?」