要の唇から目が逸らせない。
まるで、全身がその視線に捕まってしまったかのように、あたしは動くことが出来ない。
息をするのもやっと。
ゴクリ
なんとか唾を飲み込むと、それはあたしの耳のすぐそばで聞こえた。
時間が止まってしまったように感じる。
ドキン
ドキン
そして、要の唇が微かに動いた。
「……」
ビーーーッ
次の瞬間、まるでタイミングを計っていたかのように、玄関のブザーが鳴った。
あたしの身体はビクリと飛び上がり、そこで要の瞳の呪縛から逃れた。
血液が全身を巡っていく気がして目眩も感じる。
……なに?
そして、腕に抱えていた猫が床に飛び降りてどこかへ走って行ってしまった。
その後姿を目で追いながら、あたしは「はあ」と溜息をついた。
要に視線を戻すと、ソファに身を預けるように首をもたげて窓の外を眺めているようだった。
いつまでたっても慣れないな……
そんな事を考えていると、玄関からは待ちかねるようにまたベルが鳴った。
「はぁーい!」