「あーいたいた。 よかったぁ」
騒がしい大きな声に驚いて。
俺の手は元の位置に引っ込んだ。
視線の先には、ケンゾーの姿。
サングラスを片手に俺たちに歩み寄る。
「デートの件。 言い忘れてて。 今度の日曜、未央ちゃんの家に迎えに行くから。行き先は俺にまかせてよね?」
まだ言ってんの?
ケンゾーの胡散臭い笑顔から未央を遠ざけながら、俺はケンゾーを睨む。
「ちょっと、あんたさっきから……」
「一日くらい、未央ちゃん借りてもいいでしょ? 要」
「は?」
高い所から見下ろされ、勝ち誇ったような余裕の笑みのケンゾーに背筋に鳥肌が立つのを感じる。
口角をキュッと上げて。
小首を傾げて。
俺を眺めるケンゾー。
コイツは、やばい……。
俺の本能が叫んでる。
なにがやばいって?
そんなの知るか!
「そんじゃあ、ね」
余裕の笑みのまま、俺たちに背を向けて歩き出すその姿。
俺も未央もただ、呆然と眺めていた。
どこからともなく蝉の鳴き声がする。
西に傾きだした太陽が、ケンゾーの影をそのまま足元に置いていったような気がした。