「要……怒ってる?」

「なにが」


遠慮がちに言った未央に対して、俺は言葉少なく答える。

こんな事でイラついてるなんて、くだらない……。


そう思いながらも、素直になれず俺はそのまま無言で自転車のキーを外す。



まさか、これがヤキモチってやつ?
俺は、そんなの認めない。



「乗らねぇの?」

「……」



先に自転車にまたがって、視線だけを未央に向けた。
俯いたまま、唇をキュッと結んでいる未央。

前で繋がれた手は、小刻みに震えている。



「…………」



前より少し伸びた前髪のせいで、その顔ははっきりとは見えない。

でも。


泣いてる?

そう思えた。






「……ごめん。 怒ってないから、早く乗って?」



俺は出来るだけ優しく声をかける。
未央は、少しだけ視線を上げてまた俯いた。


泣いてるかと思ったけど、その瞳は泣いてなんかなかった。

ただ、泣かまいと堪えてるようにも見えた。


その表情が無償に胸をギュッと締め付ける。

俺の一言で、そんな切ない顔をする未央が愛おしく思える。


夏の日差しが照りつける中、一陣の風が吹き。

髪や服を揺らす。


シトラスの甘酸っぱい香りが俺を包む。




「未央……」




誘われるように、その髪に触れようと手を伸ばした。




――その時だった。