そう言いかけた瞬間。



「うん! そうしよう。せっかく出会えたんだ。このままサヨナラなんてもったいないよね」



俺の言葉なんか聞こえないのか、一人先走る男。


うぜぇ……
さすがの俺も、我慢の限界だ。


ガタンとイスから立ちあがり、未央の腕を掴む。



「帰んぞ」

「……え? あ、うん」



未央も慌てて立ちあがって、俺たちは店の出入り口に向かった。



「カナメ、帰るのか?」



店の奥から、マスターが顔を出した。
俺は、振り返らずに短く答える。



「また来る」

「未央ちゃん」



マスターの呼びかけに、未央は歩きながら振り返った。


そして。


今日も、マスターの手からカラフルなキャンディが飛んできた。

まるで宝石みたいにキラキラ光りながら、綺麗なアーチをえがいて未央の手の中に収まった。


「あ……ありがとう!」

「またいつでも遊びにおいで」

「はいッ」


嬉しそうに、そう言って未央は笑った。




――カラン


飴色の扉を開けると、小さな鐘の音がなってムッとした熱気が体を包む。

外は暑い。

ビルの隙間から太陽が覗き、店から出た俺たちを容赦なく照らす。

思わず額に手をかざして目を細めた。

店の脇にとめてあった自転車を確認すると、俺はそこで未央の手を離した。