なぜか息がかかる距離まで、詰め寄られていた俺は、身動きも取れなくて。
ただ、ここで引いたら負けな気がして。
だらだらと冷たい汗が背中を滴り落ちる中。
必死でケンゾーの垂れ目を見据えていた。
……いつまで、見てんだよ
しかも、黙って。
せめてなんか言え!
まるで蛇に睨まれた蛙、状態。
「…………」
「…………」
ジリジリと近づいてくるケンゾー。
その目は見据えたまま、俺は机に付いていた手を後ろへずらした。
そのせいで、さっきまで見ていた参考書が床へバサッと落ちた。
チラリとそこへ視線を向ける。
そして再び視線を戻すと、目の前の気色悪い男はなにか満足したように鼻で「ふん」と笑って体を離した。
「いや~、必死な顔ってかわいいねぇ」
「……」
俺、軽くキレそうなんスけど。
頬がピクピクと痙攣する。
俺はそれが悟られないように、口角をクイッと上げて引きつった笑顔を向けた。
マジでふざけんなよ?
「ねぇ未央ちゃん、日本人の男ってこんなに可愛いもんなの? それとも要が特別?」
は?未央に聞いてんじゃねぇーよ。
「……え、えと……あの、要は特別、です」
はぁ!? つか、お前なに答えてんの?
特別って何?
特別、可愛いって言いたいの!?
突っ立ったまま、二人の会話を聞いていた俺の肩に、ポンと何かが乗っかった。
ギギギと音が聞こえそうなくらい、顔を動かすのに苦労して視線を向けると、そこにはマスターがいて。
そして、こう言った。
「カナメは十五じゃなかったのか?」
「………」
昼下がりの穏やかな時間。
一番気温も上がって、唯でさえ暑くてイラつくってのに。
あんたら、いい加減にしろ。



