顔を上げると、いつの間にかケンゾーがそこにいて、俺の肩越しに覗き込んでいた。
「……!」
不意打ちの事で、思わずイスから転げ落ちそうになるのを必死で耐える。
それでもジッと俺から視線を逸らさないケンゾー。
近くで見ると、綺麗な顔をしている。
ちょっとだけ垂れ目で細いけど、睫毛の長い瞳。
すっと通った鼻筋。
面長で、尖った顎。
手入れされた髭が、大人の雰囲気をかもし出していた。
……ちかい。
薄い唇をキュッと結んで、俺を覗き込んでいたケンゾーは、不意にその口元を緩めた。
――は?
にやり、と笑ったその笑顔で、背筋に嫌な汗が流れる。
「最近勉強に来てるヤツがいるって言ってたけど……キミかな?」
「……さ、さあ?」
真っ直ぐ見つめられて、自然と目が泳ぐ。
「えらいねぇ、昔の俺を見てるようだよ」
「……はあ」
「で。 あの歪な指輪、キミが作ったの?」
「…………」
なんかさっきから言葉の端々が勘に障ると思ったら。
……歪で悪かったな。
ジロリと見上げると、俺を見下ろしているケンゾーと目が合う。
「へ~え。 キミ、綺麗な顔してるんだなぁ。 男にしとくの惜しいくらい。 身体も細いし。 ほんとに十八なの? 実は女の子だったりして」
「……だったら なんスか」
今度こそ、本を閉じると俺はイスから立ち上がった。
……くそ。
なんでそんなにでかいんだよ、あんた。
177センチある俺でも見上げてしまう、この男。
「いいね、その挑戦的な目。 ゾクゾクするなぁ」
「は?」
その言葉に、俺の威嚇モードも拍子抜け。
眉間にシワを寄せたまま、一歩後退した。
ケンゾーはにやり顔のまま、面白そうに俺を見下ろしている。
……なに、コイツ……。



