手にしていた参考書をバタンと閉じて、一言文句を言ってやろうと顔を上げた瞬間。
「これ以上のものなんてないよ」
そんな声が耳に届き、俺は動きを止めた。
「あたしには、どんな高価な宝石をあしらった物より、少し歪なこの指輪がいいの。
きっと、これに勝るものは世界中どこを探してもない。 世界にたった一つのあたしの指輪だもん」
そう言ってはにかんだ未央。
「へぇ……そんなに大事なんだ」
「うん。 大事」
未央の言葉に細い目を見開いていたケンゾーだったけど、未央の笑顔を見て、口角をキュッと上げてそう言った。
その言葉に、未央も屈託のない笑顔を返した。
…………。
俺は、乗り出していた体を元へ戻しながら、参考書をまた開く。
照れくさい感情を紛らわすように、俺は後ろ髪を手ですくった。
……ったく。
恥ずかしいやつ。
今まで感じていた感情が、その言葉でどこかへ行ってしまったようだ。
俺も、単純なのかも。
そう思いながら、細かい英文に視線を通す。
店内の方からは、暫く声は聞こえず、店の外を走る錆びれた車のエンジン音や、隣のキャンディの店からの楽しげな子供達の声が時折聞こえる程度だった。
やわらかいオレンジの光で照らされたセピア色の古びた本。
そこに急に影が落ちた。



