「……ッ…」


ハッとして目を開ける。

俺の視界を塞いで居たのは、桜じゃない。




――……ん?



グレーの小さなぬいぐるみ。

……ぬいぐるみ?



「ミャオーン」



そのぬいぐるみは、そんな鳴き声を発しながら俺の首筋を一舐め。


ぞわわわ。

背筋を走る悪寒……。



「おわッ な、なな……なんだッ!?」



驚いて勢いよく上体を起こすと、膝の上から何かが飛び退いた。
得体の知れないザラザラの感触が残った首筋を、手で押さえたまま金縛りのように動けない俺の体。


なに……今の。




「ミー」

「……」



ベッドの下から聞こえる、不可思議な声。

恐る恐る覗き込むと、さっきまで俺の視界を遮っていたグレーのぬいぐるみ……いや、グレーの仔猫が後ろ足でのん気に首元を掻いていた。

俺の視線に気づき顔を上げた猫。


「ミャー」


甘えた声で、なにやら俺に話しかけてきた。



「……お前、誰だ?」



眉間にシワを寄せたままそいつを見つめていると、背後でクスクス笑い声。


……?


振り返ると、すでに身支度を済ませた未央がベッドに肘をついたまま楽しそうに笑っていた。