「ほら、そのネコおろせ。 帰るぞ」



そう言うと、俺は自転車に手をかけた。
車輪は、またカタカタと音をたてる。



「ちょっと待ってよ……だってまだ子猫だよ?お腹空いてるかも……」


「自分でなんとかさせろ」


「……そんな言い方ないじゃん。 こんな小さいのに」




モゴモゴと口の中で呟くように言った未央の言葉は、しっかりと俺の耳に届いてる。


でも、あえて聞こえないふりをして、俺は歩き続けた。





…………ったく。

子供かよ?



はぁーっと大きく息を吐いて、俺は意を決して振り返った。



未央は、小さなネコを胸にキュと抱いて、俺を見つめていた。



「…………」



もう一度文句を言ってやろうと思っていた言葉たちが、その顔を見てどこかへ消えて言ってしまった。



なんだよ、そんな顔すんなよ?

俺、別に悪くないだろ?


つか……ネコ……ネコかぁ。


はぁー……




「……俺は助けないから」

「……え?」

「だから。 俺は手助けしないから、うちに置きたいなら自分で説得しろよ」



横目で未央の顔を確認しながら言う。


俺の言葉を最後まで聞かないうちに、未央の表情は花が咲いたように明るくなっていく。