ソファに座ったまま、前髪を意味もなく整える。
要といえば、腕をソファの背に乗せて、テレビのリモコンに手を伸ばしたとこだった。
「……お前達、かあさんが近くのスーパーにいるから、買い出し手伝いなさい」
「あ、はいっ。 すぐ行きます! 今すぐにっ。 ねッ要」
「あ? ちょ……引っ張んなっ」
要のTシャツが伸びようが、そんなのお構いなしで、あたしはその腕を掴んでそそくさとリビングを飛び出した。
ジトーっと白い目で見るおじさん。
あわわわっ!
「ぃ、行ってきまーす」
満面の笑顔にそう叫んで、いまだにリビングから突き刺さる視線から逃げるように玄関を出た。
外に出ると、すぐに肌に纏わりつく熱気に襲われる。
ここは日本。
シカゴとは違う蒸し暑さがある。
庭先に生えてるポプラの木から、蝉の合唱がして。
思わず耳を塞ぎたくなる程だ。
それを見上げると、葉っぱの隙間から青い空が見えた。
のんびりと穏やかに流れる真っ白な雲。
「……はああ。 びっくりした」
そこでようやく、あたしを大きく息を吐いた。
肩の力が抜けて、要の腕もついでに離れた。



