それからおじさんは、買い物に出かけてるおばさんに連絡を取ると言って2階に上がっていった。
「はあー、おかしかった……もう、お腹痛すぎ……ッ…」
目じりに溜まった涙を拭いながら、深くソファに身を沈めたのと同時。
不意に高い位置で縛ってあった、あたしの髪がクイッと引っ張られた。
顔を上げると、色素の薄い茶色の瞳が、真っ黒な髪の間からあたしをジッと覗き込んでいた。
――ドキンッ
「な、なに?」
「……笑いすぎ。 そんなにアパート暮らしがなくなったの嬉しかったの?」
――え?
思わずキョトンとしてしまう。
まるであたしの顔色を伺うように、その瞳を揺らす要。
……かわいい。
なんて不覚にも思ってしまった。
「嬉しいよー。 だって、要と2人きりだと何されるかわかんないもーん」
ツーンとそっぽを向いたあたし。
なんだか、少しだけイジワルな気持ちが芽生えてしまう。
「は? 何って、なんだよ」
「べっつに~」
肩眉をピクリと持ち上げて、心外だと言わんばかりに不服そうに顔を歪める。
だけど、その顔もさまになってる。
もっと見たいって思うのは、おかしい……かな?
プクク。
ちょっと楽しいかも。
なんて調子に乗ってたら、いつの間にか要があたしに覆いかぶさるように、ソファに両手をついていた。
「……2人きりじゃなくても、俺には関係ない」
「……」
息を呑むほどの、甘ったるい声に
思わず鳥肌がたつ。
前髪が触れる距離に体温を感じて。
要は口角をクイッと持ち上がると、楽しむようなからかうような。
そんな意地悪な笑みを浮かべた。



