なんでッ!


「けけ、ケンゾーさんッ!?」

「偶然が多いね、俺達。 もしかして本当は運命の赤い糸で結ばれてたのかも」

「な、なんで、け、ケンゾーさんがッ!!?」



驚きすぎて、口をパクパクさせながらあたしはバンガローハットをかぶってサングラスをかけたケンゾーさんを指差した。



「あら、未央 知ってる方?」

「………………」



隣では、ママが不思議そうな顔であたしをケンゾーさんを見比べている。
綺麗にカットされたヒゲを親指で触りながら、ケンゾーさんはニヤリと笑った。



「未央さんの、未来の夫です☆」


「え」


「……な、なッ……」




声にならない声を出す真っ青な、あたし。
大きな瞳をさらに見開いた、ママ。


そんなあたし達なんかお構いなしの、マイペースなケンゾーさんは真っ白な歯を惜しみもなくあたし達に向けた。




「未央、本当なの!?」

「…………」



真に受けないでよぉ、ママーッ!




もう卒倒寸前。

ケンゾーさんの無駄に高いテンションと、キラキラオーラに目眩がした。





ああ……。


本当に、あたし……
この人のお嫁さんになっちゃうのかも……。


なんて頭の中に、ウエディングドレス姿のあたしと、タキシードをきたケンゾーさんの、ありえない映像が浮かんだ。




フラフラになりながら搭乗口までたどり着いたあたし達。

さっさと先に乗り込むママ。

だけど、その背中を見つめたまま、あたしの体は鉛でもつけたかのように重く固まってしまった。




「…………」

「……未央ちゃん?」



ケンゾーさんのその声でハッと我に返る。

両手でスカートの裾を握りしめて、あたしは小さく息を吸い込んだ。



重い足を、地面から引き剥がすように1歩を踏み出したその時だった。




「……―、―……」




微かに
耳に届いた、その声に。



あたしは振り返った。