「え、あ! 美咲さんッ?」


肩まである髪をふわりと揺らして、美咲さんはにっこりと微笑んだ。



「今度帰って来る時は、もう日本を離れちゃダメだからね?」

「来てくれたの?……そうだね、うん。 そうだよね」



まさか、美咲さんまで来てくれるなんて。

チラリと顔を上げると、旬と早苗が笑ってて。
きっと2人の仕業なんだって事はすぐにわかった。



なんだか、少し照れくさくて「えへへ」って笑ったあたしは、彼女の後ろにいる背の高い男の人の存在に気がついた。


あ、あの時の彼氏さんだ……。

あたしの視線に気づいた男の人がペコリと頭を下げて、慌ててあたしも笑みを返した。



幸せなんだね、美咲さん。


嬉しいな……。

鼻の奥がツンと痛い。
喉の奥がジンと熱い。




「ありがとう……みんな。 本当にありがとうね」



思わず涙ぐんだあたしに早苗がポンッと優しく肩を抱いた。




「すぐ泣くんだから、未央は。 ね、来月には帰って来るんでしょ?」
 
「ん。 帰ってくる」



「じゃあ、また一緒の高校に行けるよね」

「ん。 また一緒……ッ……」

「あはは。 何泣いてんのよぉ」

「ほんっとに、桜井は泣き虫だなあ」



今まであたしと早苗の話を黙って聞いていた旬が、悪戯な笑みを浮かべてあたしの顔を覗き込んだ。

パチンと目が合って、旬の切れ長の瞳がさらに細められた。
優しいその眼差しはあの頃のままで、少し背が伸びて大人っぽくなった事以外はなにも変わらない。

だから、よけいにあたしの涙を誘うんだ。



「……さ、早苗~~。 旬がムカつく~」

「あ、ちょっとぉ、あたしの未央を苛めないでくれます~?」

「でたあ、早苗の未央ヒイキ~」




泣き笑いのあたし達。

本当に、みんなありがとう。




あたしは
最高の友達に囲まれて幸せです。


「さよなら」じゃない。

その言葉は、今のあたし達には無意味、だよね?