典さんと要が2人揃っていなかった事を思い出した。
どうしていなかったのかな。
なにも言わないで。
ケンゾーさんが「俺が作るから、出来るまではみんな自由にしてて」ってそう言って台所に入っていく時には確かに2人ともいたのに。
なんで?
だって要、言ったのに。
『向こうに着いたら別行動すればいい』って。
トクン
トクン
ドクン
足早に歩いてたせいで、早く時を刻んでいた心臓の音が変わった。
黒くて。
痛くて。
苦くて。
ドクン
ドクン
男の人って、付き合ってる人がいるのに。
他の女の人と2人きりでいれたりとか。
大事にしたりとか。
気持ち揺れちゃったりとかするの?
ドクン
早くみんなのところに帰りたかったのに。
急に足が重くなって。
まるであたしもこの森の木になっちゃったみたいに、体に太い根っこが生えたみたいだ。
動かせない。
動き出せない。
――うんん、違う。
動きたくないんだ。
ドクン
ドクン
あたし、やっぱり要を疑ってるの?