トントン
トントン
台所から小気味よい音がする。
「あのーー。 なんか手伝う事って」
ヒョイと顔を出すと、真っ白な真っ白なTシャツに七分丈のジーンズを着たケンゾーさんがまな板の前で、包丁を握りしめていた。
「いいの、いいの。 お昼は俺が作るから。 それより、未央ちゃんこの家の南側に行ってみな? きっと気に入るから」
「南側?」
「うん」
首を傾げたあたしに、ケンゾーさんは包丁を持ったままその先を指し示した。
そこは、あの塀の向こう側だった。
「気にしないで行っておいで」って言ってくれたケンゾーさん。
あたしは1人サンダルを履いて庭に出た。
外はやっぱり暑くて。
ジリジリと肌を焼く太陽の陽射しを遮るように、あたしは額に手をかざした。
「……」
要、誘ってみようと思ったのに。
どこにもいなくて。
こともあろうか、典さんまでいなかった。
“ドクン”
まただ。
胸の奥。
うんん、体のもっと奥のほうでジワリと響く鈍い音。
「……」
あたしはそんな自分をかき消すようにフルフルと頭を振るって、1人門をくぐった。



