革製で出来たメニュー表で顔を隠してあたしは俯いた。
「なんであの人がいるの?」
「……」
早苗がケンゾーさんを睨んだままこそっとあたしに耳打ちする。
だけど、今のあたしはケンゾーさんがいることよりも、その先にいる神崎さんの方が重要だった。
見たくなかった。
いくらカーテンで仕切られてたとしても、このカーテンじゃ丸見えだ。
帰りたい。
別に、わざわざ要とあの人が話してるのを見る必要ないもん。
握りしめたメニューがギリギリと音を立てた。
「――未央ちゃん」
その時、いつのまにか現れた美咲さんがあたしの肩にそっと手を乗せた。
ハッとして顔を上げる。
「ごめんね。 急に呼び出したりして」
そう言って眉を下げてニコリと笑った美咲さんは、相変らず春みたいないい香りであたしを包んだ。
「美咲さん、どうしたの? ビックリしたよ、急にメール来るから」
「うん。 要の様子が気になって……このままだとなんかやな予感したから」
「……やな予感?」
伝票を持って、オーダーをとるフリをする美咲さん。
そんな彼女に、早苗は不思議そうに眉を寄せた。
早苗の言葉に、美咲さんは顎をクイッと動かしてみせた。
その先は、追わなくてもわかる。
「ほら。 また来てるでしょ、彼女」
小さく溜息をついて、美咲さんは綺麗にラインの引かれた瞼を閉じた。
「え、いるの? どこどこ」
「……あそこ」
「あそこ? あそこって、あの1番奥の?」
「ん」
キョロキョロと周りを見渡した早苗に、あたしは小さく方向を指し示した。
「へー……あの人が……」
彼女を見つけたらしい早苗は、怪訝そうに片方の眉を持ち上げて。
そして、まるで呟くように言葉を零すとグラスの水を口に運んだ。
「……未央に似てるんだね」
「へ?」
……あたしに?



