射るようなその視線から、逃れるすべは今のところあたしにはない。


ドクンドクンってうるさいくらいの心臓の音が、耳元でリアルに響く。


そのせいかな。

口の中の水分がどんどんなくなってく。


頭、真っ白だ。


“要の言った事”なんてまったく浮かんでこない。




なんだっけ?






「…………」





要はそう言ったまま、あたしの目を覗き込むようにしてその瞳をグッと細めた。


そしてそのまま、あたしの手を乱暴に掴むんで部屋に入ると、ドアをバタンと閉めてしまった。



カーテンを閉めていない窓から、青白い月の明かりが差し込んでる。


ドアから視線を上げた要は、伏目がちにあたしに向き合った。




「隙、つくんなって言ったよね。 俺」

「…………」




掴まれた手にキュッと力がこもる。
長いまつ毛の奥の瞳が、あたしの答えを促してる。





要は、何をそんなに心配してるの?


あたしにいつそんな隙があったの?



わかんない……。






「けど。 だけど、あたし……なにもしてない」



そう言った言葉も震えていて。


素直になれなくて。
小さな口ケンカばっかで。
最近のあたし達、ずっとこんな感じだな……。

ふと思って、ジワリと目の前が滲んでいく。



想いと一緒に涙が零れてしまわないように、あたしはキュッと下唇を噛み締めた。



「どーでもいいけど、ケンゾーには気をつけろよ」

「……え?」



イライラしてるみたいで、要は大袈裟に息を吐いてクシャリと前髪をすいた。


キョトンとしたあたしをチラリと見ると、すぐにそっぽを向いてしまった要。



“ケンゾーには気をつけろ”って……。




「なんで?」


「……は?」