顔面蒼白のあたしの横を通り過ぎると、そのままリビングへと向かう要。
その横顔は……。
怒ってる。
「……」
だって。
こんな時間に帰って来るなんて思わなかったんだもん。
あたしは慌てて要の後を追う。
「お、おかえり! 早かったんだね」
冷蔵庫を開けて、ペットボトルを取り出す要はクイッとフタを捻りながら言った。
「んー。 今日は客も少なかったし。 美咲が早く上がれって」
「そうなんだ……美咲さんが」
そっか。
たぶん……うんん。
間違いなく気を使ってくれたんだ。
きっと、今日の事があったから。
あたしはぼんやりと応えながら、もう1度お鍋を火にかけた。
ホントにあの人は、一体誰だったんだろう。
要の事、気に入ってるみたいだった。
それに……誘ってるってなんだろう。
バタンと音がして、冷蔵庫の閉まる音が耳に入る。
視界の隅で、要の姿が見えてそのままリビングを出て行こうとした。
「……ねえ、要」
「ん?」
急に呼び止められて、要は肩にかけていた鞄を抜きながら振り返った。
そのせいで、少しだけクシャリと乱れた髪。
真っ黒な前髪が、目にかかるくらい長くて、その隙間からあたしを捕らえる瞳が不思議そうに揺れた。
ドクン
あたしは、真っ直ぐに要を見つめた。
要の瞳の力に、負けないように。
ドクン
ドクン
「あのね? あたし、神崎さんって人に話しかけられたよ」
「……」
切れ長の目が、大きく見開いて。
そして鞄を掴んでいた手が、止まった。



