家に帰ったあたしは、キッチンに立つと髪を高い位置でひとつにまとめた。
「……」
対面式のキッチンから、リビングを眺める。
ここから見えるリビングはいつもと同じで、なにも変わらなくて。
朝見たはずのネイテェブな雑貨はどこにもなくなっていた。
夢……見てたのかな?
なんて思うほど、いつもの相田家だ。
早苗の家から戻ると、ケンゾーさんはすでに玄関先にいて。
あたしが帰ってくるのを待っていた。
大きなサングラスをして、タバコをくわえていたケンゾーさんはあたしの姿を見つけると「おかえり」なんて真っ白な歯を見せて笑った。
あの時は、いつものケンゾーさんだった。
だけど、あたしが夕食の買い物をするために家を空けた、ほんの1時間の間に自分の荷物と一緒に、姿を消していたんだ。
ケンゾーさん、どこ行っちゃったのかな。
時計を見ると、すでに針は7時をまわっている。
帰って……くるんだろうか。
コンロに視線を落として、水をはった鍋に火をつけた。
「……でも、1日だけって事だったんだもん。 何も言ってかなかったのは、急ぎの用事があったのかもしれないもんね」
1人そう呟いて、まな板の上のにんじんに包丁を添えた。
その時だった。
――ガチャ
玄関から誰かが帰って来る気配。
ケンゾーさん?
あたしは慌てて火を止めると、キッチンを飛び出した。
「ケンゾーさんっ!…………」
……え?
玄関で靴を脱いでいたのは、なんと要だった。
なんで?
まだ、バイト中のはずなのに。
驚いて言葉を失ってるあたしに、要は足元から視線だけを上げた。
「……ケンゾーじゃなくて、悪かったな」
「え」
ひええええ!