――……あ。
「帰るの?」
まるで、そこを阻むように立つ美咲さんがいた。
その目は、あたしの気持ちを察してる目で。
見透かされちゃうような、大きな瞳から逃れるようにあたしは俯いた。
「ごちそうさま。すっごくおいしかった」
「……」
誤魔化すように、にっこりと笑顔を見せた。
だけど、美咲さんはケンゾーさんを見つめたまま。
ケンゾーさんは、そんな美咲さんに伝票を渡すと財布から金色のカードを取り出した。
「そんなに警戒しなくっても大丈夫だよ。 残念ながら、俺は今からちょっと予定が入っててね。 未央ちゃんといられないんだ。 あ、これ使えるよね?」
「……ええ」
美咲さんは辛気臭そうに差し出されたカードに視線を落としてから。
小さく溜息をついて、それを受け取った。
「それじゃ、俺はここで。 未央ちゃん、またね」
「……え、あ……ごちそうさまでした!」
真夏の昼下がり。
太陽がジリジリとアスファルトを焦がし。
その熱気が体中にまとわりつく。
ただ立ってるだけなのに、ジワリと汗が吹き出てくる。
去っていくケンゾーさんの姿が、まるで陽炎のようにユラユラと揺れた。
「……」
あたしは、カフェの前でただその背中を見送っていた。
チラリと浮かぶ、薄く笑ったケンゾーさんの顔。
なにもかもわかってるって、そう言ってた気がした。
やっぱり苦手、だなあ。
はあ、これからどうしよう。
携帯を広げて時計を確認する。
午後1時を回ったところだった。
早苗、何してるかな。
小さく溜息を零した、その時だった。
――カランコロン
ドキン
お店から出てきたのは、さっきのあの女の人だ。



