彼女の元へ歩み寄った要は、迷惑そうにその表情を歪ませた。
でも、そんなのはまったく気にしていない様子の彼女は、ニコニコと微笑んで要に何か言っている。
ここからじゃ、何はなしてるのか全然わかんない……。
「……」
でも、あの様子だとただのお客さんと店員って感じじゃないよ。
ドクン
ドクン
鈍い心臓の音が。
あたしの鼓膜を、奥底から叩く。
まるで、要たちの時間だけがゆっくりになってしまったようだった。
あたしには2人の姿しか目に入らなくて。
スローモーションで流れる景色に、目眩を起こしそうになる。
「――ゃん、未央ちゃん」
「……え」
突然視界に割り込んできたのは、不思議そうにあたしを覗き込んだケンゾーさんだった。
……。
そこでようやく、時間の流れが元に戻った気がして。
あたしは大きく息を吐き出した。
「どうしたの?」
「……えっと……別に」
急に賑やかになる店内。
それはきっと、あたしの耳に入る音も時間と一緒に流れ出したから。
胸がギュッてなる。
要が他の女の子といるの……久しぶりに見たからかな?
昔の要は……。
そう、あたしと付き合う前の要は、結構遊んでたみたい。
知らない女の子が家に来てることもあったし。
それも、毎回違う子だったことを思い出してしまった。
……まさか。
だって、あたしがケンゾーさんと2人でいる事でさえあんなに不機嫌になる要だよ?
自分が……そんな事するわけない。
要に限って、そんな事あるわけないもん。
「未央ちゃんは、ホントにわかりやすい子だね」
「え?」
その声につられるように、顔を上げた。
テーブルに頬杖をついたケンゾーさんがあたしを眺めてて。
そして、ニコリと微笑んだ。



