バイトが終わって家に帰る頃には、深夜を回っていた。
タイムカードを押して、鞄を肩に引っかけた。
……あと2日か。
そんな事を考えながら、店の裏口から出た瞬間だった。
「いたああぁぁぁ☆ 要~~」
真夜中だと言うのに、やたら明るい声。
――しまった。
そう思った頃には時すでに遅し。
ドンって小さな衝撃が背中に走って、誰かが俺に飛びかかってきた。
「待ってたんだよ~、一緒に帰ろ~」
やたらと猫なで声。
その声の主は、俺の耳元にわざと息を吹きかけるように囁いた。
それと同時に、俺を包むアルコール臭。
……うわー、相当酔ってんな。
首をグイグイ締め付けられながら、俺は回された華奢な腕を引き離そうと振り返った。
「典さん、離してください。 つか酔ってる?」
「酔ってないよぉ? なによぉ、せっかく待ってたのにその顔ー」
そう言って拗ねた子供みたいに唇を突き出して、俺の額を指差した。
……目がすわってるし。
思わず苦笑いになりながら、俺はさらにその体を自分から遠ざけた。