彼女の家は、カフェから10分程度の場所にあった。
街の喧騒の中に佇む、少し古びたアパート。
「ここ。 203だよ」
「……それじゃ、俺はこれで」
そう言って、俺は自転車にまたがろうとハンドルとキュッと握った。
うわー、もうこんな時間。
未央のやつ、ちゃんと1人で寝れてるのか?
時計を確認して、俺を待ってる未央の姿が目に浮かんだ。
「え? 帰るの?」
……は?
その言葉に思わず振り返る。
「……」
背の低い彼女。
大きく開いた胸元には、イヤでも目に入る谷間。
…………。
「……あのさ、今日の事忘れたの? 簡単にそう言うこと言うから、男が勘違いするんだろ? 早く帰って寝て。 それから、そーゆう服、着ないで」
未央とは全然違うけど、その顔でそーゆうの着られると、俺も困る。
「うん、わかった。 それじゃ、おやすみ」
「――おやすみ」
俺は何してんだ?
こんな名前も知らない女をわざわざ家まで送って。
しかも『おやすみ』なんて。
どーかしてる。
「あッ!」
背を向けて自転車にまたがった俺に、彼女はまだ何か言い足りないようだ。
「あたし、神崎典(かんざきのり)! 大学2年生」
典……?
……年上か……見えねぇ。
「またお店に行くねッ! 相田くん」
「……なんで……」
「ネームプレート。チェックしたの」
彼女は「バイバーイ」なんて言いながら大きく手を振った。
…………。
フイッと典から視線を外すと俺はペダルを乗せた足に力を入れた。
なんか、気づいたらあの女のペースな気が。
昔の悪いクセだ……。
俺は年上に、流されやすい……。



