呆気にとられる未央。
その顔はなんともマヌケ。
口なんか上向いてたせいで、ポカーンって開いてるし。
思わず、フッと口元が揺るんだ。
体を起こした俺は、うーんと両手を伸ばしながらさらに未央から距離をとる。
「……あ、要……あのッ……」
離れて行く俺に焦ったのか、急に体を反転させて俺と向き合った未央の頬は相変らずリンゴ飴のように赤い。
俺は、テーブルに置いてあったケータイやら財布やらをベージュの7分丈ハーフパンツに突っ込んでワックスで髪をクシャリとセットした。
そんな俺をただ黙って目で追っていた未央を、少しだけ上目遣いで見た。
「未央、ごめんな? せっかくこっちに帰ってきたのに、またバイトになって」
「……え?」
驚いたように、大きな瞳をさらに見開いた未央。
「ジンさんの代わりなんて、無理だって思ったけど。 理由が理由だし。 別にやってたコト変わんないみたいだし」
「……うん。 そうだよね、ジンさんのお願いだもんね」
キレイに磨かれたフローリングをジッと見つめて、未央はまるで自分に言い聞かせるように頷いた。
下を向いていた未央の髪に、ポンッと手を乗せるとかき混ぜるように撫でるとその顔を覗き込む。
「5日間! それ終わったらどっか行こうぜ」
「え?」
「どこでもいいよ。未央の行きたいとこ」
そう言って、口の端をクイッと持ち上げてみせた。
瞬きを繰り返していた未央の表情が、まるで花が咲いたみたいにパっと明るくなっていく。
「……う、うん!」
満面の笑顔。
俺はもう1度その髪に触れて、それからふわりと前髪を撫でた。
次の瞬間、未央のリンゴ顔がタコ顔になったのは
言うまでもない。
5日間の、オーナー代理。
美咲もいるし、別に困ることなんてないだろ。
俺は、そんなふうに軽く考えていた。