暫くその場を動けなかった。
久しぶりに頭が真っ白になる感覚を味わったかもしれない。
さすが要のお母さんだ……。
あたしを惑わす天才なのかも。
確かに、帰るって決まったの急だったから無理もないのかもしれないけど。
でも……。
でもこんなのって……!
「……」
急に静かになった部屋。
テレビから聞こえる楽しげな笑い声と締め切った窓の外からは、蝉の輪唱が聞こえた。
「――未央」
「……え?」
我に返ったあたしはゆっくりと声のした方へ顔を上げた。
……ドキン
見上げた先には、ソファの背もたれに片腕を乗せて、少しだけ首を傾げた要の姿。
真っ黒な髪が揺れて、まるで覗き込むようにあたしを見つめる要は、その手で自分の隣を指差して見せた。
「んなことに突っ立ってないで、こっち来れば?」
「……」
その瞳の攻撃に、あたしはめっぽう弱い。
オズオズと要の言う通りに傍によると、吸い込まれるようにその隣に腰を落とした。
ドクン
ドクン
うわーん……。
なんだか急に恥ずかしくなって、思わず俯いた。
真っ赤になったあたしを見て、キュッと口角を持ち上げた要。
その顔は、この状況を楽しんでる?
……って。
まさか、この家に誰もいなくなるの、知ってたの?



