「アホ、違うわ。 ちょっと酔ったの」

「え、大丈夫?」


思わず吹き出しそうになったあたし。
「プクク」って含み笑いしながら口元を押さえていると、要がキッと睨んだ。


……別に高所恐怖症でもいいのに……。


「さっきから機体が結構揺れてるのに、なんで未央は平気なんだよ」

「えー、なんでって言われても……」



確かに目の前にある積乱雲のおかげで、あたし達の乗ってる飛行機も乱気流の影響を少しだけ受けてるみたい。


心なしか周りのお客さんの顔も蒼いような……。



要はそんなあたしを見て、「はあー」って大きく溜息をつくとニヤリと悪戯な笑みを浮かべた。



「さっすが、未央。 鈍感だなー」

「ど! ど、鈍感って……あたし別に鈍感じゃないよ」

「へ~え。 どのへんが?」

「ど、どのへんって……てゆか、要の方が鈍感なんだからね!」



む…………、ムカつくうう!
そんなあたしの気持ちなんかお見通しの要は、スッと目を細めると口角をクイッと上げて見せた。


からかってる!
あたし、からかわれてるっ!


「……あのねっ」


あたしがムキになって文句を言おうと口を開いた、その時だった。



《ポーン》
『こちらの機体はまもなく着陸態勢へと移ります……』



機内アナウンスが入り、着陸間際だと教えてくれた。


勢いをなくしたあたしは、トスンと座席の背もたれに身を投げ出した。



チラリと横目で要を見る。
その張本人は、すました顔でテレビを眺めていた。


無造作にセットされた髪が、相変わらずすごく似合ってて。



……なによ。
なんかすっごく負けた気分。


不覚にもその横顔を見ただけで、胸がドキリと跳ねた。




シカゴから、朝一の飛行機に乗ったあたし達。

約11時間のフライトを経て、懐かしの地が見えてきた。