目の前の女は、言いたいことを言い終えると両手で顔を覆ってしまった。


コイツ……。
眉間がピクピクと痙攣して、思わず苦笑いになる。

俺も男だから。
百歩譲って、スケベはいいとして。

でもさ、タラシはないんじゃないの?


俺は未央以外に、自分から誘ったことなんてただの一度もない。

……くそ。マジで心外だわ。



それにしても。

“あれ”を見られてたのか。




「……未央」




黙ってしまった未央と俺の間を、ミシガン湖からの少し湿った風が吹きぬけた。
それはうな垂れている彼女の髪を揺らし、シトラスミントの香りを連れて俺の前髪を持ち上げる。


フワフワ揺れるそのやわらかな茶色の髪に誘われるように、俺は手を伸ばした。



「……」



髪に触れただけなのにビクンと震えた未央の体。
それが愛おしくて、俺の胸を無性に締め付ける。


逃げてしまいそうなやわらかな髪に、指に絡ませながら口付けを落とすと。
覆った指の隙間から恐る恐る未央が俺を見上げた。


虫の声や、古びたエンジン音が遠くから聞こえて。
俺の心を穏やかに包み込んだ。


トクン

トクン




「ちゃんと俺を見て」

「え……」



その細い手首を掴むと、それを引き寄せてキスを落とす。

真っ赤な未央は瞳を潤ませて、俺を見上げた。



あー、やべえ。




「……要?」



理性と戦う俺。
――戦う、俺。


……押し倒したい。