抱けないあの娘〜春〜



完全にパニクってるさつきは、もじもじと体を動かしたり車内をくるくる見回したりと、僕の声も聞こえていない程落ち着かない。


「さつき?」



咲哉は優しくさつきの手を握った。



「大丈夫?この車は親父のだし、運転手は僕らの行きたい所へ連れてってくれるんだよ。取って食いやしないから安心して。ほら、深呼吸しよっか。」




僕の言葉にさつきは少し落ち着いたのか、ゆっくり呼吸を正した。



「あの…咲哉、私まさかこんな凄い車で出掛けるなんて考えてなかったの…想定外のことでびっくりして。」



「そうか…さつきを喜ばせようと思ってたんだけど、逆に驚かせちゃったんだね…ごめん。」





車内に重い空気が流れ出した………