「ただいま…」



さつきは家に帰るなり、自分の部屋に直行した。



まだ胸がドキドキしている。


グラウンドからの帰り、丘の方から流れてきた甘い香りについ足を向けてしまったさつき。


さつきは思ったまま行動してしまう癖があり、弟の菖汰にはいつも叱られてしまう。

バスを間違えたのも、横断歩道を渡れそうもないお年寄りの手を引き、無事渡れた安堵感からついそのまま反対側のバスに乗ってしまったのだ。



甘い香りに誘われ、坂の上にあった古いお寺に見事な梅が咲いていて、辺りが暗くなっているのも忘れ、つい先へ先へと進んでいるうちに周りが墓地だと気付いたのだった。


心細くて怖くて情けなくて…紅梅の木から動けなくなっていた。


そんな時、遠くから誰かがやって来た。


涙で霞んで良く見えなかったが、すらりと背の高い人がこちら向かっている。


誰…?



「…さつきさん?」


優しい声で私の名前を呼んだ。



さっきグラウンドで会った高村さんだった。