小絵の部屋の向かいには… 一人物思いにふける、結城がいた。


この部屋はダブルだが- クラシックダブルといって、特別に大きな部屋である。


その部屋の窓からは、中庭を見下ろすことができ、


その瑞々しい芝生の広がる庭からは、緑の風が流れ込んでいた。


ほんとうなら、妻の啓子がそこにある、ダブルベッドに休むはずだった…



ところが、自分一人だ。
とてもじゃないが、広過ぎて、

そのあまりの大きさに… 淋しさが倍増していた。


妻の啓子を恋しいと思ったわけではないのだが…


忘れるのには、時間というものがいるのだと、


自分に、言い聞かせていた。

しかし、目を閉じても-
なかなか眠れない。


次から次へと走馬灯のように過去が去来していた。


どれほどの時間が経過したのか、定かではないが-


『静かだ…
とても不思議だ。ここは街の中にあるはずなのに…

こんなにも静かに、時間が 流れている。

まさか、寝ている間に…
どこかへ、消えてしまわないだろうね』


ふと…そんなことを思ったが、窓辺の飾りの彫刻のー

天使は優しくほほ笑んでいるだけで、答えてくれない。