今夜が峠だと言い放ったドクターも、回診を終えて仮眠中だ…
夜のしじまが不安をより強くさせていたが、母親の早苗は一心に祈っていた。
自分にとっては、この世で一番大切なのは一人息子の圭介である。
そのかけがえのない息子の命を奪われそうになっているのだ。
早苗は祈りに祈った。
阿弥陀にも観音にも…
もちろん神にも祈った。
しまいには、クリスチャンでもないのにマリア、キリストにまで…祈る始末〃
しかし、その早苗も祈り疲れたのか、
やがて長椅子になだれ込むように眠ってしまった。
-早苗、早苗〃
早く目を覚ましなさい-
早苗の耳に自分を呼ぶ声がしていた。その声は聞き覚えのある懐かしい響きだ。
『もしかして、いいえ… そんなはずないわ。
誰なの、いったい私を呼んだのは』
-私だよ早苗、久し振りだねえ…早苗-
その声は、懐かしいはずだ。死んだ夫の洋介とそっくりだった。
「まあっ、あなた…
あなたなのね、私を呼んだのは。
でも、どこからいらしたの。それに、ここは何処なのかしら〃」
早苗が驚くのも無理はない。声だけでなく姿も現していたからだ。
その声、その姿は夫に違いなかった。生きていた時と同じなのだ…


