「お母さんが朝子から渡すようにと言ったの…
まだ生死もはっきりしないのに〃」
-お母さんはね、私にこう言ったの。
お父さんが生き返ったら、 渡してちょうだい〃 -
「そんなことを言って渡したの。ほんとうに恐ろしい人だわ〃
あんたには悪いけどね」
-おばあちゃん、そんなことないわ!
私だって恐ろしい人だと思うわ。
だってね、お父さんが高松に帰ってしまったでしょ。
もう大変だったのよ、東京では…あれからね。
お父さんの残して行った洋服をね、ハサミで毎日のように切っていたわ〃
ネクタイなんて、ぷっつりとハサミで切ってしまって
何本にもなってしまうのよ、怖かったわ-
「ほんとうなの!
もし本当だったら大変だよ。
狂ってしまったのかもしれない〃」
-狂ってはいないと思うわ。だって終わったら、
すっきりとした真顔になっているもの-
「ますます、私にはわからないわ…
どうしたものかねえ〃」
-いいのよ、おばあちゃんは心配しなくても…
二人はもう終わりなんだから…しかたないよ-
「朝子ちゃんは、それでいいの…二人が離婚しても」
-よかないけど…
しかたないでしょ〃
だって、二人の間にはもう愛がないんだから-
「ほんとうに、困った人たちだね。
でも今は圭介が大変なんだからね」
二人は顔を見合わせて、互いにうなずいていた。


