「父神ゼウスを讃えるために…毎日賛歌を歌っているのよ。
神の声を吹き込まれたら… これから生ずる事柄と、
昔起こった事柄を、讃えて歌う…詩歌女神なのよ。
月桂樹の神霊にかけて誓うわ…ほんとうのことなの」
小絵はそれを聞いて唖然とした。そのことがほんとうなら、
イタリアに留学していた時の下宿のマンマが教えてくれた歌と同じだ。
『小絵…よくお聞き。
お前は日本からやって来たのだが…
どうも私は、イタリアの娘のように思えてならないのだよ…
だから、小絵のことが心配でしかたがないのだよ♪ 』
そう言いながら、賛歌を歌って聞かせてくれたのだ。
やっぱり、小絵がイタリアの国へ行ったのにも…
訳があったのだと思った。
レモンの木のニンフのことも…そうだと思う。
遠い昔に会っていたに違いない…
-それから、お尋ねしたいことがあるの…
レモンの木のニンフさんは今どこにいるのかしら…
あなたはご存じでしょ-
そのことを口にしたとたん…どこからともなく、
レモンの香りが漂いだしていた。
「レモンの木のニンフのことですね…
あなたに寄り添っていた。
今は…あなたのそばにいますよ。
小絵には見えないだけ…
夜になったら、テラスのレモンの木をよく見てごらん…
そして、よく耳をすますのです…きっと歌が聞こえてきますよ♪」
その女神のような女の言葉で、我にかえっていた小絵…
そうだ私は今ここにやって来ているのだ…
では、自分の住んでいる家息子が寝ているであろう、
あの家に帰らなくてはと… そう、思ったら目が覚めた。
しかし、不思議な夢を見たものだ。
つくづくと…小絵は自分の手を眺めて見た。
しかし、女神のような女がはめてくれた指輪は無い。
はめられた記憶はあるのだが、夢から覚めてみたらはまってはいなかった。


